若葉

年も変わってあと2ヶ月もすれば新年度。ということで、出会いと別れの季節?にちなんで会社組織における「お別れ」について書いてみようと思います。

ベンチャー企業などで、創業に関わった中核的なメンバーが会社の成長ステージの変わり目で離れることがあります。しかも、キャリアアップなどのポジティブな理由ばかりでなく、会社との関係がうまくいかなくなって・・というケースもあるようです。勝手なイメージで、ベンチャーの創業メンバーと言えば運命共同体のような関係で、めったに抜けることなんてないのでは、と思っていたので意外に感じた記憶があります。

そういうことってよくあるのだろうか?だとしたら、その裏側では何が起きているんだろう?と以前から興味はありました。昨年フリーランスになってから、ベンチャー企業の経営支援をする機会があり、当事者に話を聞いたり、いろいろ状況を観察することがありました。やはり裏側には一筋縄ではいかない事情があるようで、そこから自分なりに考えた考察をまとめてみました。

会社の成長とともに、会社と創業メンバーの関係も変化する

ベンチャーの創業時には、仲の良い友達や大学の同級生、会社の先輩後輩など、元から関係性のある人どうしで始めるケースが多いようです。というのも、創業時というのは基本的に人手が足りませんので、1人で何役もこなす必要があります。そうすると、ある分野の専門性が高いかどうか、その業務を回す能力を持っているかどうかということは二の次です。それよりも、気軽に誘えて、無理なことも頼みやすい相手の方が仲間として選ばれやすいのです。

ただ、それはある意味では客観的な能力についての評価はさておき、人としての心理的距離の近さを優先して仲間を選んでいるということでもあります。最初のうちは役割分担などと言っている場合ではなく、目の前の仕事をとにかくみんなでさばいていくことになります。こうしたフェーズは、まさに運命共同体として全員で事業推進にあたっている時期だと思います。そこに新しい人を雇い、次第にチームに分かれ、組織体制らしきものが出来てくると、1人1人の役割や責任範囲が明確になっていきます。

すると、創業メンバーで中核的な人だったのにも関わらず、段々と会社の中での居場所がなくなるというか、方向性が合わなくなってくるというか、そういう人が現れることがあるのです。これは必ずしも能力的な問題に限った話ではなく、価値観の相違や、感情的な相互作用の結果起きることなのでは?と個人的には考えています。いずれにしても、会社の成長とともに、会社と創業メンバーの関係に少しずつ変化が起きるということは確かです。

創業メンバーとの「お別れ」の舞台裏

では、創業メンバーとの「お別れ」が行われるとき、具体的に何が起きる(すでに起きている)のでしょうか?

おそらく最も代表的なものは、会社側・辞める側の心理的な葛藤でしょう。元からの関係性のある相手なので「抜けたい」もしくは「出て行ってくれないか」と伝えることに相当心理的なハードルがあるはずです。たとえば、前職の同僚を引っ張ってきたというケースであれば、今さら出て行ってくれなんて言えない・・という気持ちになるでしょう。自分で巻き込んでおいて、後から放り出すというのは相手を裏切るようで辛い、という気持ちになるのは十分あり得ることです。

次に起きるのは、周囲のメンバーへの影響です。とくに創業メンバーは取締役などの要職についていることが多いですし、何より会社や事業そのものを体現する存在になっているものです。そうした創業メンバーが抜けるということは、まさに会社のアイデンティティが失われることと等しいのではないでしょうか。周囲のメンバーがそれを見て会社の将来に不安を持ったり、自分も必要とされなくなるのではと心配になったりすることはあり得ます。

そしてもし本当は去るべきなのに、会社に残る、もしくは居続けてもらうという判断をした場合は別の問題が持ち上がります。現在の会社の成長ステージに「合わなくなった」メンバーをそのまま内部に留めるということは、周囲に「それで許されるんだ」という冷めた空気をつくり出します。パフォーマンスが低い状態に甘んじるメンバーが現れたり、反対に着実に成果を上げているメンバーが馬鹿らしくなって会社を去ったり、ということが起きます。「問題の先送り」は最悪の結果を招きかねません。

そして、そもそも創業メンバーが会社の成長ステージと「合わなくなる」状況に至る背景にも目を向ける必要があります。つまり「合わなくなる」まで本人も周囲も誰も効果的な手を打たなかったという可能性があるのです。創業当時の役割に甘んじて自ら成長し続けることをしなかったのかもしれませんし、周囲からの温かい支援や厳しいフィードバックがなかったのかもしれません。いずれにしろ創業メンバーというのは、良くも悪くも会社全体の縮図です。会社全体で起きている問題が分かりやすく顕在化したのだ、と見るのが適切でしょう。その場合、社内のコミュニケーションや協力体制にも何かしら問題が起きているはずです。

必要なのは、未来への前進にフォーカスを当てること

では、いったいどうすれば良いか?思うに、こうした事態が起きてしまったとき、万能の解決策というのはありません。問題を先送りせずに当事者間で話し合って最良の選択を模索するしかない、ということでしょう。ただ、1つ欠かせないことがあるとすれば未来への前進にフォーカスを当てることだと思います。

会社側・辞める側とで、感情的な要因のせいで必要な意思決定ができないというのは、サンクコスト(=埋没費用)が高いことが背景にある、と言えるでしょう。つまり、お互いに費やした時間、協力、フィードバック、愛情、共感など有形・無形のコストが積み上がっているわけです。これだけ時間や手間を費やしたのだから、離れたくない、手放したくない・・長く付き合った恋人と別れるときの葛藤と似ているかもしれません。

サンクコストに囚われて前進できないというのは、言わば”過去の奴隷になっている”ということです。でも私たちが生きていくのは今、この瞬間であり、その先にある未来に向けてです。改めて「未来へ前進するために何が一番大事だろう?」という問いに立ち返って考えることが大切なのではないでしょうか。